修理報告①

「雀鳴子図屏風」の保存修復

野村 千春/文化財保存修復研究所 研究員

1.作品概要 

○作品名:紙本著色 雀鳴子図屏風 六曲一双
○作者:不明
○所有者:神谷精六
○寸法:
 
左隻
右隻
備考
総寸法
169.3×幅371.8cm
169.4×幅371.9cm
 
本紙(第一・六扇)
153.9×幅55.5cm
153.9×幅55.4cm
 
〃(第二~五扇)
153.9×幅61.5cm
153.9×幅61.4cm
 
小縁
0.9cm
0.9cm
萌葱地草花紋金襴
大縁
5.4cm
5.3cm
紺地桧垣草花紋裂
縁(襲木)
1.4cm
1.4cm
黒塗・飾金具付
縁(襲木)厚
1.8cm
1.8cm
 
裏貼
-
-
鳥襷紋唐紙

2. 修理前状況 

①本紙表面に擦り傷、亀裂があり、絵具層に剥落が見られる。
②表・裏両面に、突起物等の衝撃によるものと思われる陥没痕が見られる。
③本紙裏の裏打紙に、糊の経年劣化による接着力低下が見られ、本紙が浮いている。
④本紙の浮きによって膨らんだ箇所が、擦れなどの欠損要因となっている。
⑤経年的汚れが本紙、屏風裏の唐紙、縁に全体的に付着している。
⑥屏風本体の蝶番部分の金箔押紙が、下地から浮いている部分がある。
⑦屏風裏面の唐紙に剥落、欠損、色落ち、亀裂がある。 ⑧屏風縁の襲木に部分的破損、欠損、漆塗のはがれが見られる。
⑨屏風を包んでいた中袋に少々汚れがある。
⑩屏風の箱と蓋に釘の外れなどによって破損箇所がある。部分的に虫損が見られ、表面と内側に汚れがある。

3.修理方針 

全体的に緊急性を要する酷い損傷箇所がなく、特に下地の損傷が見受けられないことから、全面的な解体修理の方針をとらず、損傷が認められる箇所のみに部分的な応急処置を施す。

イ.表面の埃等の汚れを軽く払う。
ロ.下地から浮いている本紙に糊を入れて補強を行う。
ハ.表・裏両面に見られる陥没痕の凹凸を修繕する。
ニ.損傷および欠損している蝶番部分は、旧金箔押紙を除去する。その下の本紙の浮きの修繕処置の後、新たな金箔押紙を充てて補強し仕上げる。
ホ.屏風裏面の唐紙の亀裂、剥落部分に糊を入れて補強を行う。
ヘ.本紙および裏面の虫食い、擦り傷、絵具の剥落等で彩色を失った箇所を補彩する。
ト.縁の襲木の漆塗りの剥落箇所に塗料にて修繕を施す。
チ.箱と中袋をクリーニングする。持ち運びに支障がない程度に箱を修繕する。

4.修理工程 

修理方針に則り、以下の手順により修理を行った。

①蝶番部分の旧金箔押紙の除去
修理前調査の後、屏風表面の埃等の汚れを刷毛で払った。
その後、経年劣化による浮きや破損、また欠失した屏風蝶番部分の金箔押紙を除去した。

②蝶番部分本紙の浮き修繕
蝶番部分の旧金箔押紙除去後、その下層にある本紙が浮いている箇所に、本紙裏から小麦粉生麩糊(以降糊)を部分的に射し、下貼り層に接着した。(図 1)

図1.蝶番部分本紙の浮き修繕

③蝶番部分金箔押紙貼替え
蝶番部分(手前側のみ:一隻 2 本分)に、新たな本金箔押紙の蝶番を新調し、糊付して貼り替えた。(図 2)

図2.蝶番部分金箔押紙貼替え

④本紙亀裂・陥没箇所糊付け
本紙の下地から浮いた部分や、亀裂、陥没がある箇所に、柔らかい筆で糊付けして修繕した。

⑤本紙補彩
本紙の擦り傷、欠損、絵具の剥落箇所に、にじみ止めのためのドーサ液(水1ℓに三千本膠液 10g と明礬 5g)を塗布し、乾燥後に水彩顔料(シュミンケ製ホラダム水彩絵具を遠心分離機処理にて顔料を抽出)を膠液で溶いて補彩を施した。
(図 3)
 図3.本紙補彩

⑥屏風裏面唐紙修繕
屏風裏面の唐紙が浮いている箇所に糊を付けて修繕し、模様の欠失箇所に本紙補彩時と同様に作った水彩絵具で補彩を施した。(図4)

図4.屏風裏面唐紙修繕

⑦縁の襲木の補修
屏風周りの縁(襲木)の塗りが剥落している箇所に、カシュー株式会社製油性カシュー塗料を塗って修繕した。(図5)

図5.縁の襲木の補修

⑧保存箱等のクリーニング
屏風本体の修理完了後、屏風の箱の内側と外側の両面を水拭きして汚れを落とした。釘の取れているところ等を修繕した。
屏風が包んであった綿布は中性洗剤にてクリーニングした。(図6)
図6.保存箱等のクリーニング

⑨修理後写真撮影
修復後の記録撮影を行った。

5.まとめ

本作品は全体的に緊急性を要する酷い損傷箇所がなく、特に屏風下地の損傷が見受けられないことから、全面的な解体修理の方針をとらず、損傷が認められる箇所のみに部分的な応急処置を施すといった修理を行った。
下地から浮いている本紙裏に糊を入れ補強を行い、経年劣化によって剥がれていた蝶番部分を新たな金箔押紙に貼り替える事によって、大きな損傷を補強することができた。
本紙表面の亀裂、陥没箇所に糊付けをし、本紙表面を平滑に修繕した。平滑になった本紙の擦り傷、欠損、絵具の剥落箇所に膠液で溶いた水彩絵具で補彩を施すことで、損傷箇所が目立たなくなった。本作品の金箔地に描かれた松や雀などの図柄が見やすくなり、屏風としての鑑賞性が向上した。


   修理前 右隻       


   修理後 右隻


   修理前 左隻


    修理後 左隻