修理報告②

十二天像をはじめとする真長寺作品群の修復

 齋藤 晴香/文化財保存修復研究所 研究員 

1.真長寺作品群について

愛知県立芸術大学日本画専攻では、岐阜県真長寺より「十二天像」全十二幅のうち八幅及び「真言八祖像」八幅を含む作品群の修理を、大学院修復実習授業内において継続的に行ってきた。本年度においては平成25年度から引継ぎ、「十二天像」のうち「火天像」、「真言八祖像」のうち「金剛智三蔵像」、「不動明王像」の三幅について修理を完了した。

2.「火天像」の修理について

○火天 本紙丈73.3cm×幅36.2cm 絹本掛幅
真長寺十二天像は、当初は鎌倉時代に描かれた図像であったと思われるが現在では一部を散逸し、鎌倉時代本(4幅)、室町時代本(5幅)、江戸時代本(3幅)の3時代の図像が混在する編成となっているが、ほぼ同じ法量、表装で整えられており、いずれかの時代において十二天揃いで一具となす法具としての役割を保つために、意図的に改装されたものと考えられる。本年度に修理を終えた火天像はこの内の室町時代本に属すると思われる。
修理前調査では表具全体の傷みが酷く、本紙全体に汚れの付着やカビの跡が見られ、折れやそれに伴う料絹の剥離や欠損が見られた。また、本紙裏面には不定形な寸法の紙片が複数貼られており(図1)、これは過去の修理において補修目的で貼り付けられたものと思われるが、これによって広範囲での料絹に亀裂が生じ、浮き上がりが引き起こされていた。本修理では旧表具を解体後、浄水を用いて本紙の煤出しを行い、これらの旧補修紙を取り除いて新たに欠損部の形状に合った補絹を施した。傷んでいた旧表具に関しても新調し、仕立て直しを行ったが、本紙肌裏紙に関しては、裏箔をはじめとした裏絵具の付着が著しかった為、取り替えることをせず再度小麦澱粉糊を塗布し元遣いとした。(図2)
図1.本紙に貼り付けられた旧補修紙と傷んだ本紙
絵絹が欠失した部分に、それよりも大きな補修紙が貼られていた。この手法による修理は、真長寺本十二天像では鎌倉時代の制作と思われる「焔魔天像」でも確認された。

図2.旧肌裏紙に付着した裏絵具と旧肌裏紙打ち直し作業
旧肌裏紙は室町時代が想定される他四幅に比べると少し色が濃い。また接着面に、きらきら光る白色粒子が確認できた。

3.「金剛智三蔵像」の修理について

○金剛智三蔵 本紙丈69.1cm×幅38.3cm 絹本掛幅
真言密教を伝えた八祖(龍猛、龍智、金剛智、不空、善無畏、一行、恵果、弘法大師)から成る「真言八祖像」は、紙本掛幅である「弘法大師像」を除き、同寸法で描かれ、時代もほぼ同じく室町時代の制作と思われる。しかし、「恵果像」と「聖宝像」にはわずかに手の違いが見られ、この二幅は桃山時代末から江戸時代初め頃の作品と考えられる。また、表具に関しては同一の仕立てとなっているが、本紙の左右が高座部分ぎりぎりになっている構図の不自然さから、もともと一幅巾の絹継ぎ無し(巾約42cm)の絹に描かれた、一回り大きな本紙であった可能性が高く、過去に改装が行われているものと推察される。
「金剛智三蔵像」は折れや欠損と言った料絹の損傷はそれほどでは無いものの、絵具の残留が少なく、特に頭部や衣服の地部分の剥落が著しく見受けられた。
これは過去の修理の際に裏絵具が肌裏紙に付着し大きく剥離したものと考えられる。さらに、その際打ち直されたと思われる肌裏紙に引かれた不規則な墨線(図3)の薄くなっている箇所や背景部分から透けて見えており、図像の妨げとなっていた。本修理では旧表具の解体、煤出しの後に料絹欠損部の補絹を行い、古色付けした薄美濃紙にて新たに肌裏紙を打ち直し、(図4)
新調した裂を用いて表具の仕立て直しを行った。

図3.墨線の引かれた旧肌裏紙と本紙への影響

図4.肌裏打ち

4.「不動明王像」の修理について

「不動明王像」は紙本に墨で摺られた摺り仏であり、修理前は一文字と筋部分を除いて紙表具で仕立てられており、表具全体に折れが生じ、全体に塗布された絵具層の剥落が見られた。本紙には虫食い跡と見られる穴やカビなどによる汚れの付着が見られ、表具解体後に煤出しを行い、本紙欠損部の補修(図5)、補彩をした後今後の保存における耐久性を考慮して裂による表具に仕立て直しを行った。

図5.本紙欠損部の補修

5.修理前後写真

「火天像」



「金剛智三蔵像」


「不動明王像」