調査報告

「雀鳴子図屏風」の修理に伴う調査

原案:阪野 智啓/文化財保存修復研究所 所員 (編集:安井 彩子/同研究所 研究員)
調査:阪野智啓、本田光子、安井彩子  撮影:青木智史

1.作品概要 

○六曲一双屏風 金箔貼り付け
○江戸時代(17世紀頃)
○狩野派画風(作者不明)
○個人蔵(碧南市)
本屏風は六曲一双形式で、両隻共通の画題として鳴子の掛けられた田園に遊ぶ雀が描かれていることから、「雀鳴子図屏風」という題名がふさわしいと考える。また両隻に松、右隻に竹、左隻に梅とめでたい画題が配されており、収穫の豊穣と吉祥を示している。描かれる草花は芙蓉、女郎花、藤袴、菊が並び、秋の景色として彩っている。松にとまる雀には総身が白いものも描かれ、これも吉祥を現すものと考えられる。背景と鳴子の一部に金箔を貼り、空間には砂子(金の小片)を撒く華麗な仕様であり、堅実な草花の描写と鋭利な岩石の表現は、狩野派に学んだ作者を想像させる。

2.絵画材料について

①左隻
金箔…金3~4号程度
10㎝四方、箔足ほぼ横目(左隻第1扇に一か所縦目箔足)下塗りなし
金雲に比べ、切箔・砂子や鳴子に押された箔は軽い色をしている
砂子…切箔と砂子の併用
笹……黄土地に緑青
鳴子…黄土、金箔(3~4号程度、定色)
鳴子の内外どちらかに金箔
部分的に箔を白色で潰したり、箔下を丹具にするなどして、鳴子ごとに変化をつけている
箔以外の部分は黄土、緑青(図1)
水流…灰青色の下塗りの上に鈍い群青(7番程度)で描かれ、藍隈が入る
背景(金箔)との境界に胡粉のあたり描き
芙蓉…胡粉地に臙脂の暈し
青菊…胡粉盛り上げ地に藍、臙脂、藤黄を掛ける
岩……緑青、黄土地に灰青色が掛かる。
葉……草汁の隅
松葉…緑青薄塗で括り隈
重なった奥の葉の根元に草汁
田圃…薄墨に緑青がかかる
雀……真白な雀も描かれる(図2)

②右隻(左隻と同じ内容は割愛)
金箔…箔足ほぼ横目(右隻第6扇の箔足に乱れ)
砂子…左隻よりも切箔の量が多い
女郎花…丹具地に胡粉盛り上げ、藤黄をかける
藤袴…群青に臙脂の線描

図1.鳴子

図2.白い雀

3.近赤外線・近紫外線撮影について

作品全体の近赤外線撮影を行ったところ、目視による材料判定におおよそ沿う結果が得られた。また芙蓉、藤袴は近紫外線撮影も行った。

○岩の緑部分は近赤外線で黒灰色に映るため、目視通り緑青と考えられる。それに対して、灰青色部分は近赤外線では可視光より白く映っているので、群青ではなく、藍などの染料を使用している可能性がある。

 岩(部分)可視光撮影  岩(部分)近赤外線撮影

○芙蓉は白地に桃色の暈しで花弁を描いてあり、狩野派画風であることからも、この暈し部分は臙脂や蘇芳などの染料であると考えられた。近赤外線では殆ど映らなかった暈し部分が近紫外線では映ったことから、染料で描かれた可能性がより高まる結果となった。

芙蓉(部分)可視光撮影

芙蓉(部分)近赤外線撮影

芙蓉(部分)近紫外線撮影

4.まとめ

主題である鳴子が金箔(3~4号色・定色)、黄土、緑青により全面にわたって多数描かれており、その隣り合う鳴子同士の彩色技法に変化を付ける工夫がされていた。金雲部分は箔足のほとんどが横目になるように押されていたが、通常箔足は縦横不揃いで押されることがほとんどであり、意図的なものを感じる。横に並べることによる金雲表現のひとつとも取れる。彩色に特異な点は見受けられず、狩野派の表現技法に習っていると確認できた。